第4回 米沢に愛された上杉の心
関ヶ原の戦いの後、会津120万石から米沢30万石へと減封された上杉家。この難局に兼続は知将として采配を振るいました。兼続は上杉家再建のために、希望する家臣のすべてを再雇用する代わりに、「清貧でなければ人はついてこない」と自らも含めて禄高を3分の1に減らし、藩の経営にあたりました。
このとき役に立ったのが、新潟で培った上杉家伝来の殖産興業政策でした。兼続はまず農業振興を行い、新田開発を率先する一方で、カラムシ、紅花、桑、漆などの換金性の高い作物の栽培を奨励しました。兼続の著書「四季農戒書(しきのうかいしょ)」には、農民の心得や農作業の注意事項などが細かく記されており、兼続の細やかな心遣いがよく表れています。のちにカラムシによる財政再建は、9代藩主・上杉鷹山へと受け継がれ、この地に米沢織を生みました。
城下町としての基盤整備も、困窮極まる財政の中、急ピッチで進められました。最上川の上流・鬼面川(おものかわ)から取水して、城下に水路、郊外には灌漑用水をめぐらせ、武家屋敷や町人町、寺町など整備しました。また近江や和泉から鉄砲職人を招へいして500丁の鉄砲を鋳造したり、自らの膨大な蔵書を元に学問所の礎を築いたりました。
兼続の手腕によって危機を乗り越えた米沢藩上杉家、そして上杉家によって城下町として栄えた米沢。父祖の地であるはるか新潟から過酷な運命に導かれて移り住んだ上杉家の文化を、米沢の人たちは誇り高く今に伝えています。
本堂。裏手には米沢三名園の随一といわれた
庭園があります。禅寺ならではの素朴さに
身が引き締まります。
林泉寺
上杉家の菩提寺として移封されたときに越後より移転。境内には上杉家代々の奥方や子女、重臣が祀られ、直江兼続夫妻、上杉景勝の正室菊姫、景勝の生母である仙洞院の墓所があり、数多くの参詣人を集めています。また寺内には謙信・景勝・兼続の真筆が寺宝として伝承されています。
■ 米沢市林泉寺1-2-3 9:00~17:00
コラム/兼続の合理性?
上杉家ゆかりの人々が眠る墓所には、正面に穴が開けられた家形の珍しい墓石が多数あります。中は空洞になっており、五輪塔が収められているとか。これは万年塔と呼ばれるもので、兼続が考案したと伝わっています。この墓石は、川が増水すれば土を詰めて堤防に、戦時には盾にするなど、多機能な役割を担っていました。そこで運びやすくするために、棒を差し込んで担げるように穴を開けたといわれています。しかし、墓石は1メートル近い大きなものもあり、そんなに重いものが本当に利用できたかどうかはわかりません。
直江家の家紋を彫った万年塔を中心に、左が兼続、右におせんが眠っています。
仲睦まじかったふたりを物語るように、ほぼ同じ大きさの二つの墓石が寄り添うように建っています。
景勝の正室 菊姫の墓 |
景勝公生母 綾御前(仙洞院)の墓 |
白子神社
712年創建の古社。上杉の鎮守として歴代藩主に尊ばれました。逼迫する藩財政の再興を誓った鷹山公は「御誓詞」を奉納。その一文が刻まれた石碑が鳥居の傍らにあります。
■ 米沢市城北2-3-25
普門院
上杉鷹山が老齢の恩師、細井平洲を手厚く迎えた地として知られています。
■ 山形県米沢市大字関根13928
寺町
米沢の防衛拠点として町人町の外側には寺町が造られました。東寺町や北寺町には風情ある寺がひっそりと軒を連ね、往時を物語っています。(写真は東寺町)
日朝寺
大佛次郎『赤穂浪士』に登場する上杉家江戸家老千坂兵部の墓があります。
極楽寺
上杉家の菩提寺として越後より移設。歴代藩主の妻の墓があります。
上杉家御廟所
米沢の人々が親しみを込めて「御霊屋(おたまや)」と呼ぶ上杉家御廟所。樹齢400年を超す老杉の林に囲まれ、厳粛な空気に満ちています。当初、この地は上杉家の米沢移封に伴い、米沢城へと運び込まれた謙信の遺骸の城外避難場所とされ、景勝の死によって上杉家の御廟所となり、歴代藩主が埋葬されました。謙信の遺骸がこの地に安置されたのは、明治9年のことでした。
■ 米沢市御廟1丁目5-32祠堂は、中央正面に謙信公、その向って左に景勝公。
江戸時代の大名の墓所としての形を今に伝える上杉家御廟所。
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コラム/遠路を旅した亡きがら
数々の伝説に彩られている謙信。中でも埋葬にまつわるエピソードは際立っています。越後春日山で亡くなった謙信の遺骸は、甲胄を着せたまま漆で固めて甕に密閉し、埋葬されたとか。その後、景勝の移封にともない会津若松へ。さらに米沢に運ばれ、江戸時代は米沢城本丸に祀られていました。この御廟所に安置されたのは明治9年のこと。謙信の志は、景勝や兼続はもちろん、上杉家の人々の心に深く長く刻まれつづけました。
松岬神社
上杉神社手前。かつて兼続屋敷、景勝屋敷があった地に建ち、鷹山、景勝、兼続らを合祀しています。
■ 山形県米沢市丸の内一丁目1
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