きものというと一般の人は江戸時代に武家の女性や裕福な町方が着用した小袖を思い浮かべるだろう。そして明治以降その小袖の大衆化した豪華な衣裳こそがきものだと信じている人も少なくない。
しかしよく考えてみると、成人式や結婚式などに着る晴のきものだけがきものだろうか。きものは着るものであって、たとえば職人達の仕事着だってきものに変わりはない。洋服が一般化するほんの少し前まで、日本人は皆きものを普段着として着ていたのである。けだし広辞苑を引くと、きものという項には洋服に対して和服を総称するものとある。
村田峯子さんは普段着を大切にしたいと思う。そしてきものとは何だろうと考えながら、自分がきものだと感じているものを実際に作ってみようと思い立った。果して廻りの人たちがどういう目で見るかということにも興味があった。10年余りも前のことである。
以来コツコツと制作を続けマイペースで発表を続けている訳だが、そのきっかけとなったのは、何といってもインド更紗との出会いがあったからでもあった。更紗模様の数々にめくるめくような感動を覚えていたのだ。この更紗を何かに生かすことは出来ないものか。そこで思いついたのが日頃不満に感じていたきものとの結びつきだったのである。
制作にあたり、彼女なりに考えているのは、和の形を生かすことと普段着として気軽に着られるものあること、木綿素材の見直しである。木綿にこだわるのは肌触りが良くて、皺も気にならないから、普段に着るものとして最適なのである。
村田さんはデザインから仕立てまでをすべて一人でこなしている。いろいろな布と向き合い、どういうものを作ろうかと考えている時が至福の時なのである。最近はインドの木綿布だけでなくタイやインドネシアなどアジアの木綿も使いこなしている。アジアは模様染めの宝庫で、そうした布を見ていると、長い歴史と生活のにおいを感じさせるからだ。
個性溢れる作品との出会いを、ぜひ。
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