スローな思想
天然染料の染
スローライフ、スローフードが近年にわかに注目されている。生活スタイルや食べ物について、これまでの組織中心から自分中心に、インスタント、レトルト食品から手作りや自然のものへの見直しといったところだろうか。
では、スローな思想とは何か。スローな思想のキーワードは今をどのように生きるかという姿勢にあるように思う。
本展に参加した人たちは、人生経験をある程度積み重ねた後、自らの強い意志で京都造形芸術大学の通信課程に入学した人たちだ。そこで染を学び、学ぶことの喜びを感じ取りながら、先生と学生あるいは学生同士のコミュニケーションを通して、天然染料による作品制作に取り組んできた。手間と時間を惜しまず、つまり自分自身の体を動かし、自然界がもたらす恵みに真正面から向き合って、きもの作りを考えてきたのだ。
明治時代に科学染料が入ってくるまでわが国の染色は天然染料によって生み出されてきた。わたしたちが素晴らしいと感じている江戸時代の小袖などもみな天然染料で染められたものだった。しかし、天然染料に比べ、科学染料は色数や発色性に優れ、手間も少なく堅牢度も高いためまたたくまに普及した。逆に天然染料は色が落ちるとか安定しないといったいわれなきレッテルまで貼られてしまった。それは本当だろうか。天然染料の歴史は長く、人間が天然染料から多くのことを学んできたことは確かだ。天然染料の持っている力を受け止めてもらいたいと願うのは制作者ばかりではない。どのような思いがこもっているかをぜひ見てもらいたいというのが本展覧会である。
出来上がった作品には、各人各様の想像力と経験が存分に発揮されているし、それぞれの知恵や工夫を働かせた跡がまるで結晶のようにキラキラと輝いている。
◆出品作家
石塚広、沖本道子、加藤美子、菊池あをみ、榊原あさ子、山岸千代、山口通恵、山口禮子、吉山由美子(五十音順)
山口禮子
吉山由美子